英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』(令和7年6月22日マチネ)

 観てきました。海外バレエ団の公演を観るのはこれが人生初です。子どものころから、クララやクロワゼ、ダンスマガジンなどでよく名前を見ていたアリーナ・コジョカルのゲスト出演を25cansの観劇ファッション特集で知って(かなりさらりと書かれていてびっくりした)、大急ぎでチケットを取ったものの、肝心のコジョカルは怪我で降板。長年の憧れは憧れのままとなりました。

 ただ、観に行って良かったなという気持ちで帰ってきたので、E席で1万円というだいぶ勇気のいる値段を払ったけれど満足しています。以下、感想です。

 

踊らないリラの精、おてんばすぎて「童がいる!」と新鮮だった一幕のオーロラ

 バレエの眠れる森の美女には、生まれたばかりのオーロラ姫に様々な贈り物を授ける精霊・魔女が出てきますが、今回観たピーター・ライト版では、美しさの精、誇らしさの精、謙虚さの精、歌の精、激しさの精、喜びの精と、カラボス(悪い魔女)、リラの精(カラボスの呪いを緩和してくれる良い精霊)がいました。精霊は「カナリアの精」とか「パンくずの精」とか、いろんな呼び方がありますが、リラの精だけはたぶん、どこでも変わらずリラの精です。今回、リラの精は踊りませんでした。プロローグはそこが一番のびっくりポイントだったかも。カラボスと一緒に、主にマイムで話の流れを説明する役柄でした。リラの精のマイムはもう少し優雅さがあるほうが好きです。

 一幕のオーロラはだいたいどのバレエ団でも16歳くらいの誕生日という設定で、お姫様なのでもちろん華やかさも上品さもありますが、代役で踊ったエリサ・バデネスさんは、それらよりもおてんばな感じが強く印象に残るオーロラ姫でした。観ながら「童がいる!幼稚園児がいる!」と思ったくらいです。

 ただ、自分の16歳頃や当時の周りの女の子たちを思い出すと、どんなお嬢様でも名家のご令嬢でもまだまだ子どもで、落ち着きがなくて、些細なことに笑っておちゃらけて、という子のほうが多かった気がします。そう考えると、スキップしながら走るような足さばきで4人の王子から薔薇の花をもらって(奪い取って、というほうがふさわしい勢いだった)はしゃぐオーロラも、得体の知れない老婆からのお祝いの花束に入っていた糸紡ぎを見つけるや否や「何これ新しいおもちゃ?」と興味津々で花束そっちのけで遊び始めるオーロラも、年相応と言えるかもしれません。明るいセピア色みたいな照明も好きでした。

 リラの精がお城に魔法をかけてみんなを100年の眠りにつかせたとき、レースのような木々の帳が何枚も降りてきたところは美しさに息を吞みました。二幕で、その奥で眠るオーロラが見えたときも、幻想的でとてもよかった。

 

三幕は猫の鳴き声を表現していたオーボエと、圧巻のしなやかさで背景に宝石の幻が見えたオーロラのバリエーションが好き

 二幕で出てきたフロリムンド王子(マチアス・ディングマン)は、愛に悩んでいる様子にはあまり見えなかったけれど、踊りは動きが大きくて穏やかで、のびのびとした印象。包容力のある王子様感がありました。眠るオーロラを見つけたときに、リラの精に「考えて?」って言われて、考えた結果、愛情表現としてキスを選ぶ流れが良かった。「眠ってる間に知らない人に急に口づけされるの、いくらなんでも怖くない?」とずっと思ってきた人間なので、オーロラを目覚めさせようとリラの精が助け舟を出すような演出のおかげで、その怖さがかなり減りました。

 三幕の、色んなおとぎ話のキャラクターがわちゃわちゃ踊るシーンはハッピーエンドらしくて楽しかった。猫たちの音楽は、オーボエ(だと思う)のピッチベンドで猫の「にゃーお」という、高い音から低い音に下がる鳴き声を綺麗に表現していて、こだわりを感じました。うわ~!猫だ~!ってテンションが上がりました。

 三幕のオーロラのバリエーションは圧巻。たぶん、会場の多くの人がコジョカル目当てにチケットを買って、降板に落胆しつつ観に来ていたと思うのですが、そんなアウェーな状況でもあれだけ優雅でしなやかなオーロラを踊って、実力で印象を変えていくバデネスさんかっこいい。5階席から観ていた私には、オーロラのしなやかな動きの背景に、存在しないはずの宝石が見えました。隣の席の人もバリエーションが終わった後に唸っていたので、たぶんかなり心にくるものがあったのだと思います。

 

 舞台装置では、三幕で設置された鏡に曇りと錆っぽい加工がされていたのが好きでした。100年も放置されていたらこのくらい劣化するよね、というリアルさがありました。

 音楽は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が担当。木管がうまかったなあという印象です。特にフルートとピッコロとオーボエ。フルートとピッコロは自分が経験者ということもあって耳だけが肥えてしまい、好きな音にはなかなか出会えないのですが、この日のフルートはシャーリングが少ないのに暖かみのある音色で、けっこう好きでした。
 衣裳はとにかく布の多いこと多いこと!たっぷり使った布、レース、豪華な刺繍、ビーズ、もうきらっきらでした。心の中の女児の私が喜んでいました。本当に眼福だった。特にリラの精とカラボスの衣裳が好きでした。二人はよく似た形の衣裳だったけれど、あれは双子か何かという裏設定でもあるのかしら。

 

 パンフレットを買ったらシンデレラの内容も一緒に書かれていて、「シンデレラのほうが舞台装置は気になるし、裸足で踊るのも見たいし、三幕で灰かぶりの衣裳のまま踊る解釈は好きだし、次の来日のときに観に来られるか分からないし……」といろんな理由をつけて、シンデレラのチケットも買ってしまいました。1万4000円あれば、今年こそ観に行こうと思っている新国立のくるみ割り人形のS席を買えるんだけどね。まあ、こういうお金の使いかたもたまには、ね。